半構造データ、あるいは Web 上のデータ
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国島先生や斉藤先生が XML や半構造データについていろいろ書いてくださっており、それに反応する形ではてなブックマークや twitter 上での議論が日本語で進んでいて面白い。
- http://kunishi.blogspot.com/2008/12/twitter.html
- http://leoclock.blogspot.com/2008/12/relational-style-xml-query-sigmod-j.html
- http://kunishi.blogspot.com/2008/12/xml-db.html
ブックマークや twitter で細かいコメントを書いているだけでは申し訳ないような気がするので、久々にエントリを書こうとしたのだけれど、なんだかバックグラウンドが長くなってしまった。最先端の研究者のみなさんに失礼な物言いもありますが、XML guy としては XML の話題は釣られるものなのでご容赦ください。
個人的なバックグランド
僕の個人的なコンピュータの原体験は、当時電電公社に勤めていた伯父からもらった PC-8201 である。これはいわゆるハンドヘルドコンピュータで、僕はこれを80年代後半に手に入れた。すでに世の中の流れからは置き去りにされてしまった悲しいコンピュータだったが、N82 BASIC が40文字×8行の液晶で動作して、プログラミングができた。
僕が作ったプログラムは F1 データベースで、歴代のチャンピオンがファリーナ/ファンジオからプロスト/セナまで検索できるものだった。このプログラムはデータとコードと画面がぐちゃぐちゃに入り混じった大変格好の悪いものだったが、それでも自分が書いたプログラムが動作する快感を知ることができたし、何より自分の中では実用的だった。
Web との出会い
PC-8201 のあとはプログラミングへの興味は薄れ、 PC-9801 RX21 でゲーム(A列車で行こうIIIはやりまくったなあ)をしたりしていた程度だったが、94年に大学に入学し、その年の暮に「インターネット」の存在を知り、年明け早々に大学ネットワークのアカウントをもらったことでコンピュータ熱が再燃した。MLも入りまくったし、ネットニュースもさんざんチェックしていた。SunOS4 の上で、NCSA httpd 経由の CGI (JPerl4)でご多分にもれず掲示板を作ったりもしていた。
こんなことを書いてるとおまえは情報系の学生だったのではないかと思われるかもしれないけれど、僕はれっきとした機械工学の学部生で、卒論はロボット(特にScara)のシミュレーションを OpenGL でやっていたりした。
NAIST へ
ロボットの研究はとても面白く、研究室も居心地がよかったのだけれど、一方で自分の中では Web、特にマークアップ言語・構造化文書としての SGML/XML への興味が非常に大きくなってきたため、当時 XML を研究対象にしていた数少ない研究者のおひとりである当時 NAIST (現京大)の吉川先生の研究室に行くことにした。幸い NAIST は大学院大学という特性もあり、情報系以外の学生にも手厚く教育をしてくれ、おもに M1 のときに僕はデータベースシステムについて学んだ。
XML への熱い期待
当時(90年代後半)の XML 業界はある種異常な雰囲気に包まれており、当時世間知らずの田舎学生だった僕の目から見てもアヤシゲなベンダーやコンサルが入り乱れていた(日本国内も、米国も)。それでも毎日 W3C TR のページは必ずチェックし、xml-dev/xml-user を購読し、暇さえあれば XSL(T) のアップデートを追随する毎日を送っていた。
XML勧告直後からは、村田さんという偉大な存在があったこともあり、日本国内でも XML コミュニティが立ち上がった。XML開発者の日というイベントは、昨今の勉強会・カンファレンスブームのさきがけだったと思う。そして、僕はそのコミュニティである程度のポジションを得ることができて、世の中にはすごい人がいるということを実感した。
XML を使う
当時から今まで、僕の基本的な興味のスタンスは変わっていない。僕にとって XML はあくまでも応用ありきである。もちろん基本知識として XML 1.0 のスペックは抑えなければいけないし、最低限 DOM/SAX/XSLT (今なら XQuery か)を使って XML 処理を行えなければならないが、しかし仕様をいくら知っていても、変換プログラムがいくらあっても現実の世界では役に立たないのである。XML で最も重要なのは XML インスタンス、XML 文書そのものであり、スキーマや各種 API はそれを便利に使うための補助ツールでしかない、という意識が僕にはある。
では僕にとって重要な XML 応用は何かというと、当時でいえば XHTML であり、現在はそれに Atom/RSS と microformats が加わったくらいである。もちろん必要であれば docbook を使うし(Markup Technologies99(XML99併催)の論文は docbook で書いた、というより書かされた)、ODF や OOXML も使うのだけれど、自分の中で重要なのは簡単にいえば XHTML と Atom なのである。これは言い換えると Web 上で流通するデータである。
Web とデータベースとデータベース管理システム
Web はデータベースか? この問いに対する答えは人によって異なると思うけれど、僕の答えは簡単だ。Web はデータベースである。しかし、Web はデータベース管理システムではない。
Web には集中管理機構はない。Web はその名の通り世界規模の分散システムであるが、そのアーキテクチャは集中的な管理機構で守られるのではなく、統一インターフェースとアドレス可能性というアーキテクチャスタイル(制約)で形作られている。
つまり Web 上のデータというのは、管理システムの制約から解放され、(RESTの制約にさえ逆らわなければ)自由にただデータとして振る舞うことができるのである。ここが RDBMS 中に格納されたデータと Web 上のデータの一番の違いだと思う。
Web 上のデータは、あらゆるプログラムから独立して生き延びることができる。Web 上のデータはプログラムによって性格を変える。Web アプリケーションを作る人と、検索エンジンを作る人、フィードリーダを作る人が独立して作業を行えるのは、Web上のデータがプログラムから独立しているからである。
データの天動説
XML の最も革新的な一面をあげるとすれば、僕は真っ先に整形式を許したことを挙げたい。XML ではスキーマが明示的に存在しなくても、プログラムからデータを利用可能になったのである。XML 文書に固定的なスキーマはない。これは逆に言うと、一つのXML文書に複数のスキーマを適用してもいい、ということになる。
一つのXML文書に複数のスキーマを適用できるとどうなるのか。それぞれのスキーマごとに、一つのXML文書が違った顔を見せるようになるのである。たとえばあるフィードリーダから見ると単純にサイトの新着情報を通知してくれていたAtomフィードが、OpenSearch 拡張を解釈できる検索アプリから見ると検索結果一覧に見える、といった具合である。
これはすなわち、XML文書はアプリケーションプログラムから独立しており、それはつまり Web 上のデータが持つ特性そのものである(整形式と名前空間でその特性をエンハンスしている)。
Data on the Web と半構造データ
「Web 上のデータ」とさんざん言ってきたのだが、わかる人にはわかると思うけどこれは "Data on the Web" なわけである。僕の意見がどれくらい Abiteboul 先生の意思と被っているのかはわからないけれど、彼の最初の半構造データ論文が "Querying semi-structured data" であり、"Managing semi-structured data" ではなかったのは何かを暗示しているような気がしてならない(単なる思い込みかもしれないが)。
半構造データとは Web 上のデータであり、原理上 Web 上のデータは集中管理できない。なので単一の「管理システム」は存在するはずもない。逆に言うと単一の管理システムで管理できるような XML データは半構造データの文脈を持っていない XML データなわけで、そのようなデータは本来のモデルに基づいて管理するのが正しい姿だと思われる。
ラベル: semistructureddata, xml